はじめに
中期経営計画の作り方シリーズでは、中期経営計画の概要、全体の手順や考え方を掴んでいただき、シリーズ(11)以降から、経営戦略編に入っています。
1.ファイブフォース分析とは
経営戦略を考えるとき、まず大切なのは「どこで戦うか」という視点です。
前回ご紹介したポーターの競争戦略(コストリーダーシップ、差別化、集中戦略)を実行するにも、自社がどのような競争環境に置かれているかを知らなければ始まりません。
そこで今回は、もう一つのポーター理論である「ファイブフォース分析(Five Forces Analysis)」をご紹介します。
これは、業界全体の構造を5つの要因から整理することで、収益を得やすい業界かどうか、また自社の立ち位置がどのような状態かを理解するためのフレームワークです。
2.中小企業経営での活用方法
中小企業の経営では、「業界全体を分析するなんて大企業の話だ」と思われがちですが、実際には“商圏”や“取引先の関係性”といった縮小版で考えるだけでも十分に役立ちます。
むしろ、「自社がどの産業構造に属しているのか」を見つめ直すことで、目の前の価格競争や顧客対応の背景が見えてきます。
たとえ小さな会社であっても、全体の構造を俯瞰する視点を持つことで、見える景色がまったく変わってきます。
“点”ではなく“面”で物事をとらえる力が、経営判断の質を大きく左右します。
3.ファイブフォースの具体的な内容
ファイブフォース分析では、以下の5つの力(フォース)に注目します。
(1) 新規参入の脅威:同業他社の新規参入が多いと、価格競争やシェア争いが激しくなります。
(2) 代替品の脅威:自社の商品・サービスを代替するもの(異業種含む)が多いと、価格や機能での差別化が難しくなります。
(3) 売り手(供給者)の交渉力:仕入先や協力会社の力が強いと、コストの削減が難しくなります。
(4) 買い手(顧客)の交渉力:顧客の力が強いと、値引き要求やサービス追加などで利益が圧迫されます。
(5) 業界内の競争:同業他社との直接競争。価格、品質、納期、ブランドなど様々な軸で差別化が求められます。
たとえば、地域のスーパーが大手チェーンの進出で苦戦している場合、それは「新規参入の脅威」と「買い手の交渉力の増加」が同時に起きているともいえます。
製造業において海外製品が流入しているなら、それは「代替品の脅威」が強まっている状況です。
こうした構造を整理することで、「今、自社がどこにエネルギーを割くべきか」「何を守るべきか」が明確になります。
4.やらないことを決めるのも戦略
そしてもう一つ大切なのは、“やらないことを決める”ことも戦略であるという視点です。
中小企業には限られた人員・資金・時間しかありません。
すべての競争に真正面から挑むのではなく、構造的に勝ち目の薄い分野からはあえて退くという判断も、立派な経営判断です。
おわりに
次回は、こうした外部環境に対して、自社が持つ“強み”や“経営資源”(人材・設備・ノウハウなど)をどう見つけ、どう活かすかというテーマに進みます。
(担当:横瀬)
-References-
Porter, M. E. (1980). Competitive Strategy: Techniques for Analyzing Industries and Competitors. The Free Press.
(邦訳:『競争の戦略』ダイヤモンド社)