会計・税務の知識

2018年07月05日 発行相続法(民法)の改正~配偶者保護規定について~

はじめに

現在開会中の第196回通常国会において、相続法(民法)の改正が審議されています。今回の改正は、約40年ぶりの大きな見直しとなり、相続実務においても多大な影響が見込まれます。

改正案は多岐にわたりますが、本稿では特に「配偶者保護」に関する規定に絞って説明いたします。

 

1.改正の趣旨

相続法(民法)改正の趣旨は、高齢化社会の急速な進展という社会経済情勢の変化に対応するためです。特に、老老相続が増加する中、高齢で残された配偶者の居住の権利を確保する必要性が高まったことが挙げられます。

 

2.「配偶者保護」に関する改正の内容

(1)配偶者の居住権の創設

 ①配偶者短期居住権

配偶者短期居住権とは、相続開始の時に被相続人と同居していた配偶者が、その自宅に無償で居住し続けることができる権利です。存続期間は、遺産分割によりその自宅の帰属が確定した日、または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までとされています。

相続開始により当然に発生する法定権利のため、被相続人の遺言などで定めておく必要はありません。また、遺産分割においては、配偶者の取り分の計算には算入されません(他の財産の取り分を減らすことがありません)。

ただし、第三者へ賃貸して収益を得ることは認められていないほか、権利が発生するのは、その住宅の居住部分のみであることに留意が必要です。

 

 

 ②配偶者居住権

配偶者居住権とは、相続開始の時に被相続人と同居していた配偶者が、その自宅に、原則として終身の間、無償で住み続けることができる権利です。この権利は相続開始で当然に発生するのではなく、遺贈(遺言による贈与)または死因贈与契約(贈与者の死亡により効力が発生する贈与)であらかじめ定めておくか、遺産分割で取得することになります。

配偶者は、登記により第三者に権利を主張できると共に、住宅の所有者に対して登記請求権を有します。遺産分割においては、その財産的価値相当分を相続したものとされ、配偶者の取り分の計算に算入されます(自宅そのものを相続する場合に比べて、他の財産の取り分を減らすことがありません)。

 

 

①②の権利により、遺産分割の過程で自宅が換金されて配偶者が居住できなかったり、配偶者が自宅を取得すると、その分他に取得できる財産が減少してしまったりするという不利益の解消・軽減が期待されます。

 

 

(2)遺産分割に関する配偶者保護の方策

現行の民法では、被相続人がその生前、配偶者と同居していた自宅を配偶者に贈与していた場合、その自宅は特別受益として遺産に持ち戻して計算されるため、預貯金等その他の財産について配偶者の取り分が少なくなるという問題があります。

そこで、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住用の建物又は敷地を遺贈又は贈与したときは、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定し、遺産分割において、遺産に持ち戻す必要はない(計算の対象外とする)とされました。

 

 

おわりに

今回の相続法(民法)の改正は、配偶者保護に関する規定以外にも、以下のように、重要な論点が含まれています。

  • 預貯金の仮払い制度の創設
  • 自筆証書遺言の方式緩和・保管制度の創設
  • 遺留分減殺請求の効力等の見直し
  • 遺留分の算定方法の見直し
  • 権利・義務の承継に関する見直し
  • 相続人以外の者の貢献

 

 

また、施行時期は、原則として法律の公布日から1年以内の政令で定める日からとされています。

引き続き、国会審議及び施行時期の行方に注目していきたいと思います。(担当:竹内)

PAGETOP

お問い合わせ