会計・税務の知識

2020年06月25日 発行貸倒損失の税務処理

新型コロナウィルスにより経済環境が不安定になり、取引先からの債権回収が滞ることが増える可能性があります。

不良債権や貸倒れが発生してしまった場合には、税務上の処理を適切に行うことで、税額を減らす効果が得られます。

今回は、税務調査でも論点になりがちな貸倒損失の税務処理について確認していきます。

 

 

1.税務上の貸倒れが認められる要件

税務上、貸倒れが認められる要件は、法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ、形式上の貸倒れの3つがあります。

税務調査では、その損金性(要件を満たしているか)と処理事業年度(期ずれ)が問題となることが多いです。

分類

損金算入が認められる事例

会計処理

計上日

注意点

[法律上の貸倒れ]
金銭債権が切り捨てられた場合

(法基通9-6-1)

・会社更生法や民事再生法等、法令上の整理手続の規定により債権が切り捨てられた場合に、その金額

 

・債権者集会や金融機関のあっせん等による私的整理が行われた場合、合理的な基準により切り捨てられた金額

 

・債務免除により債権が消滅した金額(但し、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に限る)

・損金経理をしているかどうかに関わらず、損金算入される。

(損金経理をしていない場合には申告調整を行う。)

・裁判所の認可決定等により、債権が法律上消滅した日

 

・負債整理の取り決め日

 

・債権放棄の場合は、債務者に対し書面等で通知した日

・債権が消滅した日の属する事業年度においてのみ、損金算入が認められる。

 

・債務者に実質的な支払能力があるなど、客観的に必ずしも回収不能とは認められない場合には、債務免除が債務者に対する寄附金と認定される可能性がある。

[事実上の貸倒れ]
金銭債権の全額が回収不能となった場合

(法基通9-6-2)

・債務者の資産状況、支払能力等から、その全額が回収できないことが明らかになった場合、その回収不能額

(但し、当該債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理できない。)

・損金経理が必要。

・債務者の債務超過、破産、廃業、死亡等で、その全額が事実上回収不能であることが明らかになった事業年度

・債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかでなければ、債権の一部に貸倒れが見込まれたとしても、損金算入することはできない。

 

・保証債務は、現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできない。

[形式上の貸倒れ]
一定期間取引停止後弁済がない場合等

(法基通9-6-3)

・継続的な取引先の資産状況、支払能力等が悪化したため、取引を停止した場合に、最後の取引又は弁済期又は弁済のうち最も遅い時から1年以上経過したとき、その売掛債権の回収不能額

 

・同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立てに要する費用に満たず、支払を督促しても弁済がない場合、その売掛債権の回収不能額

・損金経理が必要。

 

・売上債権の額から備忘価格(1円)を控除した金額を損金経理する。

・最後の取引又は弁済期又は弁済のうち最も遅い時から1年以上経過した日

・売掛債権に限定して認められる。(×貸付金等)

 

・担保物のある場合は適用できない。

 

・同一地域に存在する取引先については、その売掛債権の合計額で判断する。

 

・継続的な取引を行っていない相手先については対象外。

 

 

2.税務上の貸倒れが認められない場合

貸倒れ処理した債権について、社会通念上回収が不可能と評価できる事実が認められない場合には、税務上は損金性が否認され、相手方に対する経済的利益の供与であるとして寄附金認定されるリスクがあります。

税務調査では事実認定によるところが大きいため、回収努力を行った事実関係や、回収不能と判断するに至った根拠など、客観的に説明できる資料を残すことが重要です。

また、回収不能が明らかになった債権は、タイムリーに貸倒れ処理を行うことが求められ、計上時期の先延ばしは利益操作とみなされる恐れがあります。

 

 

3.相手が第三者でない場合

子会社等(資本関係がなくとも事業関連性を有する者を含む)に対する債権放棄については、以下のような相当な理由があると認められる場合を除き、原則寄附金に認定されますので、特に慎重な検討が必要です。

 

(1)その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであるとき

(2)業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくとき

 

また、役員等への貸付金を債権放棄した場合には、相手方が明らかに返済能力の無いことを証明できない限り放棄額は役員賞与とみなされ、債務免除された個人にも所得税等が課されることになります。

(担当:江森)

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