会計・税務の知識

2020年07月16日 発行公益法人等に財産を寄附した場合の譲渡所得の特例

はじめに

個人が現金以外の財産(不動産、株式など)を法人に寄附した場合、寄附時の時価で譲渡があったものとみなされ、所得税が課されるのが原則です。

 

ただし、公益法人等に寄附した場合に、その寄附が一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、例外的に非課税とする特例が設けられています。今回は本特例の概要についてご紹介します。

 

 

1.制度の概要

(1)「公益法人等」とは

特例の対象となる「公益法人等」とは、公益社団法人、公益財団法人、特定一般法人(一般社団法人及び一般財団法人のうち法人税法上の一定の要件を満たすもの)及びその他の公益を目的とする事業を行う法人(例えば社会福祉法人、学校法人、宗教法人や特定非営利活動法人など)をいいます。

 

(2)承認要件

非課税承認を受けるには、財産の寄附について以下のすべての要件(一定の独立行政法人、国立大学法人などへの寄附は②のみ)を満たすことが必要です。

①寄附が公益の増進に著しく寄与すること

②寄附財産が、寄附日から2年を経過する日までの期間内に寄附を受けた公益法人等の公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みであること

③寄附により、寄附をした人の所得税又は寄附をした人の親族等の相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること

 

ここでは割愛しますが、上記①~③にはそれぞれ具体的な判断基準が設けられています。

 

(3)承認を受けるための手続

非課税承認を受けようとする人は、「租税特別措置法第40条の規定による承認申請書」及び必要添付書類を所轄税務署に提出する必要があります。
提出期限は原則として寄附の日から4ヶ月以内又は寄附した年分の確定申告期限のいずれか早い日までとなります。

 

(4)承認が取り消される場合

寄附について非課税承認を受けても、その後、承認要件に該当しなくなった場合には非課税承認が取り消されます。
その場合、承認取消の時点によって、以下の者に所得税が課されます。

 

承認取消時点

課税対象

財産が公益目的事業の用に供される前

寄附者

財産が公益目的事業の用に供された後

受入法人

 

 

2.制度活用上の留意点

(1)承認申請のために作成すべき申請書、準備すべき書類は膨大であり、またその過程で受入法人側の協力が必要な場面も少なくありません。そのため、面識のない公益法人等へ予告なく財産を寄附する場合に本特例の適用を受けるのは実務上困難と考えられます。そのような寄附の場合、現金を寄附して寄附金控除の適用を受ける方が多いと思われます。

 

(2)この制度は非課税承認を受けるまでの期間が長い(およそ2~3年といわれています)ことが活用しにくい点として挙げられます。これに対し、1.(2)の要件に加え、寄附財産の管理が厳格である等一定の要件を満たす場合には、承認申請書の提出日から1ヶ月(寄附財産が株式の場合は一定の場合を除き3ヶ月)以内に承認又は不承認の決定がない場合、非課税承認があったものとみなす制度が設けられています。これを承認特例といいます。承認特例については、近年の税制改正で対象となる寄附の範囲が拡充されており、改正内容に留意が必要です。

 

(3)上場会社オーナーが保有する自社株を公益法人等に寄附し、その株式から生じる配当金を財源として社会貢献活動が行われるケースがよく見られますが、寄附時にこの制度を活用すれば税負担なく法人に自社株を移転させることができます。承認要件には受入法人の定款内容や役員構成に関するものが含まれるため、オーナーが財団法人を新設する場合は、この制度の活用を見越して設立にあたって承認要件の内容を確認することが望ましいといえます。

 

 

おわりに

非課税になるというメリットは大きいものの、留意すべき事項が多いため、活用にあたっては慎重に検討する必要がある制度といえます。

(担当:伊藤)

 

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